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2022年4月19日火曜日

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膠原病でステロイド, 免疫抑制を行う/行っている患者で, 潜在性結核が認められた.

活動性結核の発症リスクもあり, 治療が考慮される.

潜在性結核の治療はINH 9ヶ月やRFP 4ヶ月がある. 後者のほうが肝障害など副作用リスクが少ないことが知られているが, 膠原病においてはRFPがステロイドの代謝やカルシニューリン阻害薬の代謝に影響することを知っておかねばならない.

潜在性結核患者を対象としたINHやRFPのStudyでも, 基本的に膠原病や免疫抑制をおこなっている患者は除外されていることが多い.

特にステロイドであるが, どの程度影響するものか?


RFPによりどの程度 GCは影響を受けるのか?

ヒドロキシコルチゾンは半減期 35%短縮, Sytemic clearanceを35%増加

(J Clin Endocrinol Metab 59: 1204, 1984)

7例において, RFP開始前〜開始後3wkにおけるPSLの代謝を評価.
 

 半減期は45±8.1%低下. 

 Total body clearanceは91±26%増加
 

 AUC(Area under the time-concentration curve)は,
 Total PSLで48±7.3%減少. Free PSLは57±9.8%減少する

(Acta Med Scand 1983; 213: 339-43.)


RFP使用中で, 且つPSLを投与している患者(SLE, ネフローゼ) 3例と, 
RFP非使用のネフローゼ患者(1), 健常ボランティア(2)の3名において,
 RFP使用とPSL代謝の関連を評価

 前者では, RFP使用中のPSL動態と, 使用終了後の動態を比較.
後者では, RFP導入前と後の動態を比較

 ClearanceやAUCは, RFP開始2wk程度で1.5-2倍変化し, その後一定となる.
RFP終了後も2wk程度で元に戻る.

 また, 変化の半分は最初の5日間で生じる
= 早期にPSLの代謝に影響する.

(Eur J Clin Pharmacol 1993;45:287-289)


Reviewでは, Glucocorticoidは,
RFP開始において大凡2倍量程度に増量することを推奨.

・患者の状態や病状に合わせて調節することが大事.

・副腎不全ではクリーゼの誘発に注意.
自己免疫性疾患やステロイド依存の喘息では再燃に注意する.

・ちなみにカルシニューリン阻害薬は, 1日3回投与に増やし, 
薬物動態の評価を行いつつ調節することが推奨されている
(これらにどの程度影響するかは不明確な部分が多い)

(Drug Safety 2002; 25 (2): 111-133)

2022年4月14日木曜日

網様皮斑: Livedo reticularis, Livedo racemosa

参考論文
Indian Dermatol Online J 2015;6:315-21.)

網様皮斑は網状の赤色〜青色, 紫色の皮疹で, 一過性のことも持続性のこともある.
・皮膚の血流低下に伴う所見であり, 生理的なものから, 末梢循環不全に伴うもの, SLEによる血管炎に伴うものなどある
・Ehrmannは1907年にLivedoのパターンを2つに分類し,
 生理的なLivedoをLivedo reticularis(LR)と呼び
 病的なLivedoをLivedo racemosa(LRC)を呼んだ.
・双方とも皮膚血流の低下, 皮膚血流の酸素濃度の低下による所見.

Livedo reticularisは良性で, 左右対称性, 可逆性, 形も均一な網様皮疹で定義される.
・若い女性や中年女性で生理的に認められる.

さらにLRは4つに分類される
生理的LR: 若年女性に多く, 寒冷曝露により四肢に生じる
 温めると戻る. 
・Primary LR: 気温によらず生じる
・特発性LR: 恒久的に認められるLR.
 二次性, 病的なLRCが否定された場合に特発性LRと診断
 早期のAPSやSneddon症候群で稀に認められる.
・アマンタジン誘発性LR: アマンタジンにより生じるLR

Livedo racemosaは二次性で, 左右対称性, 非可逆性, 形は不均一で「壊れた」環状皮疹
・LRCはLRに類似した所見となるが, より広範囲(体幹や臀部, 四肢)に認められ, 形もいびつ, 壊れた環状, 円環様の病変となる.
Sneddon症候群で報告された所見であるが, APSやSLE, 本態性血小板増多症, Thromboangiitis-obliterans, 真性多血症, 結節性多発動脈炎で認められる.
特にAPSの25%, SLEに伴うAPSの70%で認められる.
 結節性多発動脈炎でも多い皮膚所見となる.

LRCの原因


LRCを呈する頻度の高い疾患: CPN, LTA, LV, APSの臨床, 組織所見
CPN: cutaneous polyarteritis nodosa
LTA: lymphoytic thrombophilic arteritis
LV: livedoid vasculitis
APS: antiphospholipid syndrome

(Arch Dermatol. 2008;144(9):1175-1182)

LR, LRCによく似た皮疹: Erythema ab igne → 火胝(ひだこ)
・Erythema ab igneは熱に誘発される皮膚疾患であり, 初期は可逆性のLRに類似した所見となる.
熱曝露が持続することで色素沈着をきたし, 所見が残存するようになる


2022/4/14 UpDate

さて, これらLivedoをもう少し掘り下げてみる.
Australasian Journal of Dermatology (2011) 52, 237–244 
La Revue de médecine interne 29 (2008) 380–392 

Livedo reticularis, racemosaの機序

皮膚血管の解剖

・皮膚血管は小動脈が皮膚表面まで上がり,
周囲で静脈がドレナージし, 戻ってゆく.
・この動脈血流と静脈血流の差が生じると, 環状に皮疹が生じ得る

血管運動性リベド, 血管攣縮性リベド


・全体の血流が低下することで生じる.
 
・動脈血流が低下し, 静脈は鬱滞する.
 
 鬱滞した静脈血により
環状の皮斑を生じる.
 
・一般的な生理的なLivedoはこのタイプ
・さらに全身性の低循環状態(ShockやHypovolemia)では, これが高度に生じ, さらに静脈のうっ滞が起こり, その結果チアノーゼが目立つようになる. 
 より環が紫色となって見える.

Livedo racemosa


・皮膚内の特定の血管単位のみが障害

・障害部位に隣接する正常の血管領域が, そのドレナージを担う(黒矢印部分)


実はLivedoの本質は環状の部分ではなく, その中心
Livedo = 青白い, reticularis = 網状, racemosa = 枝分かれした.
・形態的に均一な網状ならばreticularis, 枝分かれしたものがracemosaとされるが, それ以外に中心の白斑にも注目することが重要.
・reticularisは白色化が主で, 温めると消失する
 = 小動脈支配領域の血流が低下し, 周囲の静脈が鬱血していることを示唆する
・racemosaは阻血領域では白色化, 炎症領域は発赤するため, 部分的に白く抜けることもあれば, 抜けないこともある. 温めても一部消失するが, 所見は残存.
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・よくみるとRacemosa(右)の分岐状皮斑の周囲は白く抜けている. また分岐部も分厚く見えるところも多い = 炎症部位.
・Reticularis(左)は一様の太さの環が形成されているように見える


ここからは私見

となると, Livedoにも程度があるはず.
・生理的Livedo reticularis: 寒冷により血管が攣縮. 中心部が蒼白となり, 相対的に周りの色が正常〜軽度鬱滞した静脈部が発赤として認識され, 均一な太さの環状皮斑となる.

・Shock, 低灌流状態によるMottling: 中心が蒼白. さらに静脈も鬱滞し, チアノーゼを生じる. 蒼白+紫がかった縁を伴う環状皮斑となる.

・血管炎や血栓症, コレステロール血栓では部分的な動脈障害を生じ, racemosaとなる. 皮膚は発赤〜蒼白まで混在しえる.
 広範囲で生じる場合はReticularis様の環状に見えるかもしれないが, 中央の蒼白部分に注目し, 不自然な発赤や一部の環壁が癒合, 歪にみえる場合はやはり怪しいかもしれない.

・また, 静脈鬱滞が環を形成するならば,
 下肢を下ろす, またバルサルバを行うことでより環が明瞭化するのではないか?
 実際, 結節性多発動脈炎患者の診療において, 端座位や立位でしっかりとLivedo reticularisが出現するものの, 臥位になると消失, または不明瞭になる例は個人的にもそれなりに経験している.

ということで調べてみる

Positional, Postural, Livedo reticularisなどで検索すると, いくつか症例報告が引っかかる

・64歳男性, 突如発症した下腹部〜大腿のLivedo reticularisと高血圧, 腎障害. Livedoは立位で出現し, 臥位では完全に消失.

 >> コレステロール塞栓症が診断
(J Rheumatol. 1993 Nov;20(11):1973-4.)

・65歳男性, 10日前からの体幹と下肢のLivedo reticularisと足先のチアノーゼ, 腎障害. Livedoは立位でのみ出現し, 臥位で消失.
 
 >> 皮膚生検からは血管障害性と判断. 眼底所見よりコレステロール塞栓と診断.
(Clin Med (Lond). 2014 Jun;14(3):314-5.)

・80歳の女性, 大腿の疼痛と立位時のLivedo retiularisを自覚.
他に高血圧, 腎障害が認められた.
 
 >> 皮膚生検よりコレステロール塞栓症を診断
(Eur J Dermatol. Mar-Apr 2011;21(2):276-7.)

・腎不全でコレステロール塞栓症が疑われた8例のReview. このうち6例で病理で証明
 立位または臥位での皮膚診察にて, 全例でLivedo reticularisを認めた.

 その全例で, 立位時により所見は明瞭であった.

 2例は臥位で疑わしかった部位が立位でより明瞭化.
 
2例は臥位では認めず立位で出現した.
(Am J Med Sci. 2001 May;321(5):348-51)


ということでほぼコレステロール塞栓症の報告例のみであった.

同様に小血管障害や閉塞に起因するLivedoの場合, 立位で出現, または顕在化するような現象はあってもよいと考えている.

これからはLivedoは立たせて評価せねばならない, というクリニカルパールが流行ることでしょう. 

2022年4月13日水曜日

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喀痰や尿のグラム染色は感染診療においてかなり役に立つ印象があるものの, エビデンスの面ではちょっと弱い.

(これはプロトコール化するのが難しいし, 検者の感覚や経験に左右される面があるためと思っている)


そんななか, 国内より非劣性RCTが発表されたので紹介.

(JAMA Network Open. 2022;5(4):e226136. doi:10.1001/jamanetworkopen.2022.6136)

GRACE-VAP: 日本国内の12カ所のICUにおけるOpen-label, 非劣性RCT.

・患者群は15歳以上, 人工呼吸器管理≥48hでVAPと診断された群(mCPIS ≥5)を対象.

・除外項目: 使用薬剤のアレルギー歴あり, 妊婦, ICU退室, 心不全や無気肺と診断された群, 導入時に24h以上抗菌薬を使用, 積極的な延命を行わない患者.
また, COVID-19感染例も除外された.


・上記を満たす群を, 

 ガイドラインに準じた抗菌薬選択群と,
 

 気道分泌物グラム染色所見に準じた選択群に割り付け, 

 臨床的反応率を比較.
 

 臨床的反応率は, 14日以内にAbxを終了, 画像所見の改善がある/増悪がないこと, 肺炎症状, 所見が改善していること, その後もAbxの再投与が必要ないことの4項目で定義.

・ガイドライン群では抗MRSA薬, 抗緑膿菌活性を持つAbx

・Gram染色群では上記のように判断.


母集団


アウトカム

・臨床的反応率はGram染色群で76.7%, ガイドライン群で71.8%

 
RD 0.05[-0.07~0.17], 非劣性が証明.

・死亡リスクや人工呼吸器管理, ICU管理期間も有意差なし.

・緑膿菌活性のあるAbx, 抗MRSA薬の使用頻度がおよそ3-4割減少.


 ただし6.8%でEscalationが必要

 (Escalationがあると, それだけで実臨床上マイナスイメージが強くなりがちなので一応強調しておく).

2022年4月8日金曜日

Multiple Drug Hypersensitivity Syndrome (MDHS)

抗菌薬にてDIHSを呈した患者.

重症薬疹であり, ステロイドで治療するが, 治療中に感染症を併発したため,

相互作用や共通点のない他のクラスの抗菌薬を使用・・・すると, さらに薬剤過敏症状や臓器障害が増悪・・・

といった経験, ありますか?


こういうのをMultiple Drug Hypersensitivity Syndromeというらしい

ちなみに以下も参照

DIHS(Drug-induced Hypersensitivity Syndrome), DRESS(Drug Reaction with Eosinophilia and Systemic Symptoms)

DIHSの重症度評価と治療方針

MDHは複数の構造の異なる薬剤に対して過敏性反応を呈する病態.

(Int Arch Allergy Immunol 2017;172:129–138)

・ペニシリンアレルギー患者の13%が他の種類の抗菌薬にも反応を示す.


 過去に薬剤アレルギーを示した患者群では,
 そうではない群と比較して他の抗菌薬へのアレルギーリスクが9.4倍となる

・さらに, 薬剤アレルギーの家族歴がある患者の10%で薬剤へのアレルギーを生じる報告もある.

・NSAIDはアレルギー機序よりもCyclooxygenase阻害といった作用により生じることが多いため, この場合はNSAID intoleranceと呼び, MDHとは分けて考える.


DIHS, MDH, NSAID intoleranceの比較

・DIHSからMDHに移行する例が多い


MDHでは薬剤反応性T cellが関与しているが,
薬剤間の交差反応ではなく, それぞれの薬剤に対して特異的に反応するT cellが存在する.

・交差反応を示すクローン性T cellは認められていない.

・また, 反応するT cellは其々で異なるサイトカインを分泌するため, 薬剤毎に症状も異なる.

・CD38+, PD-1+を示すT cellが多く発現している


MDHにおいて原因となった薬剤の例


1996-2018年に薬剤過敏でコンサルトされた症例全例をReview

・9250例で薬剤過敏の精査を行い,
このうち1819例で1剤以上の薬剤過敏が認められた.

・2剤以上の過敏症が認められた症例が201例.


 さらにMDHと診断された症例は45例(92件の薬剤過敏)
 

 薬剤過敏症例の2.5%がMDH

・アレルギーのタイプではI型とIV型アレルギーが多い.


 原因薬剤はペニシリンやキノロンなど抗菌薬が多い.

(J Allergy Clin Immunol Pract. 2020 Jan;8(1):258-266.e1.)


2013年の論文より, MDHの頻度を評価した報告のまとめ

(Curr Opin Allergy Clin Immunol 2013, 13:323 – 329)

・頻度はばらつきがあるが, <2-3%から10%前後の報告が多い.
・原因薬剤は抗菌薬が多い. 
 ステロイドも入っているというのがなんとも難しい

2022年4月7日木曜日

周術期のトラネキサム酸

Tranexamic Acid in Patients Undergoing Noncardiac Surgery 10.1056/NEJMoa2201171 

POISE-3: 非心臓外科手術を予定された患者群を対象とし, 周術期のトラネキサム酸投与群 vs Placebo群に割り付け, 出血合併症のリスク, 血栓症リスクを比較したRCT.

・さらにFactrial designで, 1種類以上の降圧薬を使用している患者群を, 高血圧回避策 vs 低血圧回避策群に割り付け, 比較している
(上記論文はトラネキサム酸における解析)

・対象患者は45歳以上, 入院にて非心臓外科手術が予定, さらに出血や心血管合併症リスクを認める患者群を対象(例: 動脈硬化性疾患既往, Major surgery, 70歳以上, Cr ≥ 2mg/dL)

・除外: 心臓外科手術予定, 脳神経外科手術, 元々トラネキサム酸を使用予定であった群, CCr <30mL/min(Cockcroft-Gault), 維持透析

トラネキサム酸は1g DIVを術前, 術後に投与. 


母集団


アウトカム

・割り付けから30日以内の致命的な出血, Major bleeding, 重要臓器の出血リスクを比較(Primary outcome).

・また, 心筋障害(MIやTrop単独上昇), 非出血性Stroke, 末梢血管塞栓, 近位部DVTリスクも比較.

・Primary outcomeは9.1% vs 11.7%, HR 0.76[0.67-0.87]と
 

 有意にトラネキサム酸投与群で低下.(NNT 38)
 

 内容別では, Major bleedingリスクが低下している.

・血栓症や心筋障害リスクはトラネキサム酸はプラセボ群と比較して非劣性.

・Sub解析では, 整形, 非整形手や
貧血の有無,
腎機能のどの群も
介入による出血合併症の減少効果が期待できる


3次アウトカム

・死亡リスクは有意差なし

・輸血必要例は減少;
 NNT 38.5程度.

2022年4月4日月曜日

繰り返すアナフィラキシーの鑑別: Systemic Mastocytosis(全身性肥満細胞症)

症例: アナフィラキシー発作を複数回繰り返す中年患者.

しかしながら食事や薬剤, 運動といった誘発因子は全く認められない.

症状は顔面の紅潮や浮腫, 小腸をはじめとした消化管の浮腫と消化管症状が主であり, ストレスが生じると出現する経過であるとのこと.

症状は数年前〜であり, それまではストレス下でも症状は認められなかった.


既往歴として骨髄線維症の指摘があるが, 血球減少はなく, 治療は不要と判断されている.

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さて, どのような疾患が考えられるだろうか?





Anaphylaxisであるが, 明らかな誘因が不明な病態をIdiopathic anaphylaxisと呼ばれている.

(Clin Exp Allergy. 2019;49:942–952.)

・Anaphylaxisのうち6.5-59%は誘因が不明

・病歴聴取が不十分, 患者が認識していないといった理由や,
 アレルギー様の病態を呈する他疾患などが考えられる.

 鑑別疾患は以下の通り;

*Globus: 咽喉頭神経症
・また, 上記にはないが, Capillary leak syndromeも鑑別にはいる.

鑑別アルゴリズム

・客観的に評価された血管浮腫や症状があるかどうかでまず判断し,

 あれば隠れたアレルゲンの精査や肥満細胞症を評価する.

 主観的な症状のみの場合, 精神症や異常感覚などの評価を考慮する.


今症例では実際に顔面浮腫や紅潮, 消化管の浮腫などがあり, 客観的な症状は認められている. 

アレルゲンの詳しい聴取は行うが, それでも見つからない場合, 繰り返す症状として肥満細胞症やSystemic capillary leak syndrome(SCLS)を考慮した.

背景の血液疾患が引っかかり, それが多発性骨髄腫やMGUSならばSCLSの可能性を考慮するが, 今症例ではそうではなく骨髄増殖性疾患である骨髄線維症であることから, 肥満細胞症の可能性があると判断.


さて肥満細胞症をまとめてみる.(SCLSも近いうちに書きます)


Systemic Mastocytosis

(Am J Hematol. 2021;96:508–525.)

・Mastocytosisは形態, 免疫表現型が異常な肥満細胞がクローナルに増殖し, 1つ以上の臓器に集積することで生じる疾患.

・皮膚に限局したCutaneous mastocytosis(CM)
: 小児に多く(2歳以下での発症), 蕁麻疹を繰り返す. 

 典型的な所見は色素性蕁麻疹

(J Hematol Infect Dis 2021; 13; e2021068)

・皮膚以外の多臓器に浸潤するSystemic mastocytosis(SM)
: 成人例で多く, より重症.
 

 消化管や心血管, 神経, 骨などが多い.
 

 アナフィラキシーや全身性症状を呈することもある
 

 リンパ節腫大や肝脾腫も肥満細胞の浸潤により生じる
 

 非肥満細胞系の血液悪性腫瘍を生じるリスクにもなる


(HAWAI‘I JOURNAL OF MEDICINE & PUBLIC HEALTH, FEBRUARY 2018, VOL 77, NO 2, 27-29)


参考: 83例の消化管症状(+)のMastocytosisの解析

(J Allergy Clin Immunol 2013;132:866-73.)

・発症年齢は29歳[0-66], 女性例が7割を占める.

・非消化管症状としては,
アナフィラキシーショック,
顔面紅潮 フラッシュ,
頻尿, 掻痒感等.

・c-Kit変異は高感度で認められる



・消化管症状は, 腹部膨隆, 腹痛,
嘔気嘔吐, 下痢, 血便.



MastocytosisはKITのPoint mutationを伴うことが多い.

・KITの3型受容体(CD117)は肥満細胞(MC), 造血前駆細胞, 生殖細胞, メラノサイト, 消化管のカジャール間質細胞で発現するチロシンキナーゼであり,
 正常な肥満細胞の発生, 造血, 配偶子形成, メラニンの生成, 胃蠕動の制御に関連する.

・KITの発現は造血前駆細胞から成熟細胞への分化に伴い低下するが,
 肥満細胞では高レベルで維持されている

・成人例のSMではKITのチロシンキナーゼドメインのGain-of-function somatic mutation, 特にD816V変異が大半で認められる.
 他に認められるものは(<5%), V560G, D815K, D816Y, insVI815-816, D816F, D816H, D820Gが報告されている.

・小児例の肥満細胞症もクローン性であり, 生殖細胞や後天性のKIT変異が関連


・KIT D816Vが肥満細胞のみ生じる場合はIndolent SM(後述)のことが多く,

 他の造血細胞にも生じるとより臓器障害も高度となる.

 さらに他のSomatic mutaitonが合併すると重篤化する.


Systemic mastocytosisの診断: 2016年のWHO基準

・Major criteriaを満たし, Minorを1項目以上満たす場合,

 またはMinorを3項目以上満たす場合に診断となる

・診断は主に罹患臓器の組織検査, 骨髄検査, KIT 816のPoint mutation, 血清トリプターゼが重要

・さらにPhenotypeを判断するために臓器症状の評価を行う(B, C所見)


補足: 

・国内では末梢血や骨髄検体にてKITシーケンス解析(AML)が検査可能だが,
これはExon 8, 10, 11, 17を解析.

・KIT D816Vはexon 17に含まれるため, この検査で代用することは可能な可能性が高い.

・血清トリプターゼは自費検査となる


骨髄はSMにおいて最も浸潤を認める臓器の1つであり,
骨髄穿刺, 生検は診断に有用である.

・他の血液疾患の評価, 血液腫瘍の評価目的としても有用である.

・診断上重要な多巣性高密度のMC凝集はギムザ染色などの標準染色法では認識できないことがある.
 特に低顆粒化や異常核形態, AML合併, 細網繊維が存在する場合は所見が認められないことが多い.
 免疫組織マーカーとしてトリプターゼを用いると診断能は良好. ただし, CMLやAMLの一部の芽球や好塩基球では陽性となり得る.

・CD25発現細胞の検出はMC評価に有用.

腫瘍性のMCは一般的にCD25 and/or CD2を発現している

・正常のMCではCD25陰性であり, その点で異常MCと正常MCの鑑別が可能

・骨髄液を用いたフローサイトにてCD117 highでゲートし, その細胞集塊でCD25, CD2を評価する. CD117high, CD45intでゲートしてもよい.


SMの骨髄では細網線維の増生, 肥満細胞の浸潤,
他好酸球浸潤やリンパ球の浸潤が認められる.

・Type 1; 局所的, 斑状のSMの浸潤とその周囲の細網線維の増生や, 


 Type 2; シート状の浸潤+骨硬化, 骨髄線維化など認められる.

 
Type 3; CMLやCMML, AMLの所見を合併する例もある.

・骨髄だけではなく, 脾臓や肝臓, 類洞周囲にも線維性変化を認め,
 線維化を促すサイトカインの関連が示唆されている.

・骨髄線維症や本態性血小板増多症患者の骨髄では,
他のMPNと比較して骨髄中肥満細胞量が多いことも示されている.

(Int Arch Allergy Immunol 2002;127:123–126)(Pathology – Research and Practice 205 (2009) 634–638)


血清トリプターゼ

・肥満細胞症では血清トリプターゼの持続的な上昇(≥20ng/mL)が認められる

・特に血液腫瘍合併例ではISMと比較してより高値となりやすい(≥200ng/mL)

・AMLやCMLの一部でも上昇する.


SMと可溶性IL-2R

・SMで認められるCD25はIL-2R alpha chainであり,
 可溶性IL-2Rの上昇が認められる可能性がある.

・健常人では955pg/mL[138-2829]
SM患者全体では2491pg/mL[310-15020]

 Anaphylaxis群では1361であり,
 SMではIL-2Rは上昇する.

・SMでも進行性ほどIL-2Rも高い
(Ia: 皮膚SM, Ib: Indolent SM,
 II: 血液疾患由来SM, III: agrSM)

(Blood. 2000;96: 1267-1273)


SMの分類: 2016年WHO分類

Indolent SM: SMの46%を占める最も多いパターン

・C所見を認めないSM(骨髄不全, 障害をともなう肝脾腫, 骨浸潤, 低栄養, 吸収不良など)

・他の活動性SMと比較してより若年(中央値49歳)であり, 皮膚病変やMCMRS*, 消化管症状の頻度が高い(66-75%)
 

 *MCMRS: MC mediator-release symptoms. アナフィラキシーなど

・肝脾腫や消耗症状の頻度は低い(<20%)

・ISMは一般人口と比較して生命予後は同等

・急性白血病やASMへの移行リスクは低い(<1%, 3%)


Smoldering SM: ISMのうち, 2つ以上のB所見を有する群

・B所見: 骨髄MC浸潤が>30%, 骨髄異形性/増殖症, 肝脾腫(肝障害や脾機能亢進を伴わない)

・ISMのうち14%がSMM, 骨髄浸潤のみ認めるBMMが23%.

・ISMよりも予後が不良(HR 5.5[2.8-10.2])

・BMMではよりアナフィラキシーなどのMCMRSの頻度が高い(86%).


SM-AHN: SM-associated hematological neoplasm. SMの40%

・主に骨髄腫瘍が多く(89%), 次いでリンパ腫, 骨髄腫, CLL, Primary amyloidosisが数例.

・骨髄腫瘍では, SM-MPNが45%, SM-CMMLが29%, SM-MDSが23%

 
34%で好酸球増多(≥1500/µL)を認める. 特にSM-MPNでは56%と多く, このうち39%でFIP1L1-PDGFRA融合遺伝子が認められた.

・高齢者のSM(≥70歳発症)では, 32/42例がSM-AHN

 CMMLが7例, AMLが1例, MDSが7例, 骨髄線維症が1例, MPDが1例
MMが1例, B細胞リンパ腫が1例, 血小板減少が4例. (Am. J. Hematol. 88:406–408, 2013.)


Aggressive SM: SMの12%であり, 3番目に多いタイプ

・C所見を1項目以上認めるSM

・消耗症状(60%), 肝脾腫(50%), リンパ節腫大(30%)を認め,
 さらに重度の貧血や血小板減少を認める(24-27%)
. 白血球増多が41%

・血清トリプターゼは著明に上昇を認める(>200ng/mL, 40%)

・白血病転化が5%で認められ, 
全体の中央生存期間は41ヶ月間


Mast cell leukemia(MCL): 稀であり, SMの1%程度

・SMの基準を満たし, 骨髄生検にてびまん性の異常MCの浸潤を認める. 

 骨髄穿刺スメアではMC≥20%を認める.
古典的には末梢血中のMC≥10%

・予後不良の病態であり, 中央生存期間は2ヶ月.

 
ECNM登録データでは, 中央OSは1.9年間, 10年生存率は29.9%


MCLは急性と慢性を区別する

(Leukemia Research 39 (2015) 1–5)

・MCLはSMの稀な病態で, 未熟な肥満細胞の白血病的拡大, 臓器障害, 薬剤耐性を呈し, 予後不良な病態である.

・MCLの一般的な生命予後は1年未満であるが, 稀に緩徐に進行し, 臓器障害を呈さず, 肥満細胞もより成熟した形態で存在するタイプもある.

・これらを分類するために, 前者を急性MCL, 後者を慢性MCLとして区別される


慢性MCLは骨髄中肥満細胞が≥20%を満たし,
 且つC症状を認めないことで定義される.


・慢性MCLでは, MCは成熟MCや紡錘形のMCとなることが多い(A, B)

・急性MCLでは, 未熟なMCが主であり, Metachromaticな顆粒状の芽球が認められるが, これは慢性MCLでは認められない

・二重, 多葉核は双方で認められる.


慢性MCLの臨床経過

・慢性MCLの経過は緩徐であり, SSMの経過と類似する.

・数カ月〜数年の緩やかな経過を呈する患者もいれば,
 短期間でAMLに移行する患者もいる.
 多くの症例が最終的に急性MCLへ移行する.

・C所見が認められた時点で慢性MCLは急性MCLとして扱う.


(Blood. 2020;135(16):1365-1376)


Mayo Clinicで1976-2007年に診断されたSM 342例の症状頻度: (Blood. 2009;113:5727-5736)


SMの治療

Indolent/Smouldering SMでは対症療法が基本.


 それ以上ではKIT阻害薬やImatinib, Cladribineなどを考慮する

・MCLの治療:

 MCLでは, 大半の患者でKIT D816Vに対するTKIなどの標的薬に耐性がある

 急性MCLで若年で健康ならば多剤併用化学療法+SCTが推奨される.
 高齢者ではクラドリビンなどの化学療法, TKIが検討される.

 慢性MCLではTKI単独, または化学療法との併用が選択肢となることがある.
 これはKIT D816Vが認められた場合にTKIの効果が期待できるため,
 評価することが重要.
 

 他のKIT変異にはイマチニブが選択肢となることがある.

・緩和治療としてはヒドロキシウレアやプレドニゾロンが試される


ISM, SSMにおける
対症療法の推奨



Aggressive SMの治療はKIT阻害薬が効果的である.(国内は未承認)

 KIT阻害薬にはMidostaurinやAvapritinibがある.


MidostaurinはKIT D816Vを含む複数のKinaseを阻害する経口薬
Aggressive SMに対して効果的との報告がある.

(N Engl J Med 2016;374:2530-41.)

・成人のAggressive SM, SM-AHN, MCL症例を対象とし,
Open-labelでMidostaurinを100mg bidを4wk継続.
 副作用が認められた場合は50mg bidに減量, または中止.

・アウトカム: ORRは60%[49-70]
 Major response 45%

 骨髄MC量と血清トリプターゼの
変化値はそれぞれ-59%, -58%

 多い有害事象は嘔気, 嘔吐, 下痢
また血球減少も2-4割で認める.


Avapritinibは選択型1型KIT阻害薬であり, KIT D816Vに強く作用する.
FDAでは2021年にAdvSM, SM-AHN, MCLに対して承認された.

(Nat Med. 2021 Dec;27(12):2183-2191)

・Phase 1 study; AdvSM患者 86例に対して, Avapritinib 30-400mg/dを投与し, 最大耐用量を評価. 実際は最大耐用量は200-300mgであった.

・副作用は眼瞼周囲浮腫が69%, 貧血 55%, 下痢 45%, 血小板減少 44%, 嘔気 44%が高頻度で認められた.

・ORは75%, さらにCRは36%で認められ, 
ほぼCRが得られなかったMidostaurinよりもAdvSMに対する有用性が期待されている. 

・第2層試験は200mg/dで行われる


SM-AHNではKIT阻害薬に併用する形で,
 合併血液腫瘍性疾患に応じた治療薬を考慮する方法が提唱されている.

他のTKI

・イマチニブはKIT D816V陰性例(exon 17以外の症例)で効果が見込める.

 特にexon 8-11の変異例やFIP1L1/PDGFRαを認める症例で良い適応

(Front. Pharmacol. 11:443. doi: 10.3389/fphar.2020.00443)

・ニンテダニブ(オフェブ®): マルチキナーゼ阻害薬. 

 進行性SM, 肥満細胞白血病患者より抽出したKIT D816VのiPS細胞パネルを用いて, 疾患もモデルを作成し,  KIT D816Vを標的とするチロシンキナーゼ阻害薬を検討したところ, NintedanibがKIT D816V阻害作用を認めることが判明.

 Nintedanibは新たなSM治療薬となりえる. (Blood. 2021;137(15):2070-2084)


TKI以外の化学療法: Cladribin ロイスタチン®

・Cladribine 0.10-0.13mg/kgを2hで投与.
 Day 1-5で投与し, 4-8wk毎に最大6サイクル繰り返す.

(Blood. 2003;102:4270-4276)


SMに対して, 2-CdA治療を行なった患者68例の解析

(Blood. 2015;126(8):1009-1016)

・2-CdA: Cladribine 0.14mg/kg IV or SCをDay 1-5,
 4-12wk開けて繰り返す. 1-9サイクル施行.

・患者はISMが53%, ASMが47%
中央サイクル数は3.7サイクル[1-9], 


 ORRは72%(CR 0, Major response 47%, Partial 25%)
 

 CR: 全ての症状, 所見が1ヶ月以上改善している状態.
 

 MR: >50%改善を認める状態
 

 PR: 10-50%改善を認める状態で定義.

・症状の変化

 倦怠感や皮膚症状, 消化管症状は有意に改善

 アナフィラキシーや神経精神症状も改善する.

 色素性蕁麻疹, 臓器腫大も有意に減少

・副作用の頻度

 大半の患者において治療耐用性は良好.


 Grade 3-4の副作用は骨髄抑制と感染症.

 骨髄抑制では, 
 急性好中球減少: Grade 3 13%, Grade 4 34%
 

 遷延性リンパ球減少: 82%
 

 ISMの1例で汎血球減少あり

・感染では菌血症やカンジダ血症, 日和見感染症などが報告.


Mayo Clinic SM databaseより, Cladribineで治療されたSM 42例を解析
 (adv-SMが22例, ISMが17例, SSMが3例)

(British Journal of Haematology, 2022, 196, 975–983)

・adv-SM 22例のおける解析: 

 adv-SMでは,
 CRは0%, PRが32%, 
 Pure clinical response 14%

 副作用は血球減少が主.

・ISM, SSM20例の解析:

 CRが20%, MR 40%, PR 10%. 
7割で反応が認められる


造血幹細胞移植

(Biol Blood Marrow Transplant 22 (2016) 1348-1356)

・SMにおける造血幹細胞移植の報告は,
 主にSM-AHN(血液腫瘍を合併したSM)でAHNの適応により行われる報告が主

・急性MCL(肥満細胞性白血病)ではAlloHCTは推奨される.


 慢性MCLでは病状に応じて判断が必要

・血液腫瘍を合併していないSMでは, 進行性SMで移植を考慮する.


 一方でIndolentやSmolderingでは余命は悪くないため, 
これらの鑑別は重要.

・移植関連死亡もあるため, 進行性SMではまずTKIやクラドリビンを優先する.


SMの予後因子

・European Competence Network on Mastocytosisにおいて, 1639例を後ろ向きに評価し, 予後因子を抽出 (Lancet Haematol. 2019 Dec;6(12):e638-e649.)

・非AdvSM例では, 高齢者, ALPがリスク因子となる
・AdvSM例では高齢者, トリプターゼ, 白血球増多, 貧血, 血小板減少は予後不良因子.
 皮膚病変は予後を改善させる因子となる.